天秤の片皿に鍼、もう片皿に柔らかなリボンを乗せた静物。立川の鍼灸師が鍼治療と疼痛・柔軟性の関係を読み解く記事のアイキャッチ画像

鍼で変わるのは疼痛より柔軟性?RCTの繊細な結論を読み解く

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目次
  1. 「鍼=痛みに直接働く」イメージの落とし穴
  2. 同じRCT、もうひとつの結果 — 痛みは変わらなかった
  3. 「効かない」のか「測れない」のか — パイロット研究の3つの限界
  4. プラセボ群でも痛みが減った理由 — C-tactile経路という発見
  5. 「柔軟性が変わる」が結果的に痛みを減らす設計
  6. yellの考え方:痛みは結果、柔軟性は原因
  7. まとめ
  8. 参考文献

こんにちは! yell鍼灸治療院の斉藤です!

今回は、鍼治療の「働き方」には繊細な違いがある というテーマで書いていきたいと思います!

「鍼=痛みに直接働く」というイメージをお持ちの方は、とても多いです。
ところが、2023年のRCT(ランダム化比較試験)を読むと、痛みは有意に変わっていない・でも柔軟性は変わった という、ちょっと不思議な結果が報告されています。

「変わるのに変わらない」みたいで、混乱しそうですよね、、

論文を細かく読むと、その理由が見えてきます。

「鍼=痛みに直接働く」イメージの落とし穴

鍼治療を受けに来られる方の多くは「とにかく痛みを取りたい」というご相談です。

たしかに、鍼には鎮痛に関する研究がたくさんあります。
ただ、論文を読み込んでいくと、「働きかける対象が場面によって違う」 ことが分かってきます。

たとえば慢性的な腰痛・肩こりへの働きと、肉離れ受傷直後の急性痛への働きは、別物として整理されている。
そして、ハムストリングの柔軟性を測ったRCTでは、痛みではなく柔軟性の方が、よりはっきり結果に出た のです。

同じRCT、もうひとつの結果 — 痛みは変わらなかった

ポルトガルのRCTでは、柔軟性の評価とは別に、VAS(視覚的アナログスケール・痛みの強さを線の長さで表現する評価法) で痛みも測られました。

結果はこちらです。

条件痛みの統計的有意差
本物の鍼p = 0.55(有意差なし)
偽の鍼p = 0.50(有意差なし)
プラセボp = 0.58(有意差なし)

3群すべてで「統計的な有意差は見られなかった」というのが結論です。

ただ、数字の変化を見ると、こんなニュアンスが残っています。

  • 本物の鍼 → 痛みが 4.5%減少
  • プラセボ → 痛みが 2.3%減少
  • 偽の鍼 → 痛みが 4.7%増加

「統計的にはっきり言えるレベルではないけれど、本物の鍼と偽の鍼で逆方向に動いている」という結果です。

3群の痛み変化率棒グラフ。本物の鍼-4.5%・偽の鍼+4.7%・プラセボ-2.3%、3群とも統計的有意差なし。立川の鍼灸師による鍼治療と痛みのRCT結果

「効かない」のか「測れない」のか — パイロット研究の3つの限界

「痛みが有意に変わらなかった=鍼は痛みに効かない」と読むのは、ちょっと早計です。
論文の著者は、研究の 3つの限界 を正直に書いています。

① 15名という少なさ

参加者は 15名 だけ。
統計の世界では、サンプル数が少ないと「本当はある差」も「ない」と判定されやすくなります。

このRCTは パイロット研究(本格的な研究の前の試験的研究)として設計されているので、サンプル数の小ささは織り込み済みです。
著者自身も「より大規模な研究が必要」と書いています。

② 直後の変化しか見ていない

このRCTで測ったのは、鍼を受けた 直後の変化 だけ。
実際の鍼治療は、週1回×数回など継続して行うことが多いです。
つまり、継続した場合の働きは別の研究で確かめる必要がある ということ。

③ 強い刺激(Leopard spot)を使わなかった

著者は、もっと強い刺激法(「豹の斑紋法」と呼ばれる複数点を細かく刺す手技)の方が直後の変化は出やすいと言及しています。
ただ、参加者の離脱を避けるため、今回は穏やかな手技 で20分留置のみに統一されました。
そのため、痛みへの働きは「強い手技を使えば違ったかもしれない」という余地が残っています。

論文の著者の言葉を借りるとこうなります。

「より強い手技の探索と、長期の働きの評価が今後の研究で必要」

学術論文の余白に貼られた3つの黄色付箋「サンプル15名」「直後の変化のみ」「強い手技不使用」。立川の鍼灸師が解説するパイロット研究の3つの限界

プラセボ群でも痛みが減った理由 — C-tactile経路という発見

おもしろいのは、プラセボ群(穿刺なし・皮膚に触れるだけ)でも、痛みがわずかに減った こと。
これは「気のせい」では片付けられない、ちゃんとした神経のメカニズムが背景にあります。

論文では、C-tactile(C触覚)線維 という遅伝導の感覚神経が紹介されています。
簡単に言うと、皮膚を 軽くなでる程度の刺激 でも、この神経が反応します。
その信号は、脳の 島皮質辺縁系(情動を司る領域)に届き、ホッとした感覚や軽い鎮痛の働きを起こすと考えられています。

しっかり目に言うと、「触れられる」という体験そのものが、神経を介して身体の状態を変えうる ということです。
施術を受けるときの「気持ちいい・安心する」という感覚にも、こうしたメカニズムが関わっています。

指が肌に軽く触れる瞬間のクローズアップ写真。立川の鍼灸師が解説する触覚C線維による鎮痛メカニズムと鍼治療の体験

「柔軟性が変わる」が結果的に痛みを減らす設計

ここがポイントです。

論文の結論は、こうまとめられます。

「鍼は柔軟性を改善することで、結果的に肉離れ予防と腰痛軽減につながる可能性がある」

つまり、鍼の役割は 「痛みを直接抑える」 だけではなく、「身体を柔らかくして、痛みが起きにくい状態をつくる」 という設計でも捉えられる。

ハムストリングの硬さは、肉離れ・腰痛・膝のお皿の腱の不調 のリスク因子として複数の論文で報告されています。
なので、柔軟性が上がることは、痛みが出てくる前の段階 で介入できる、という意味で価値があります。

「痛みが出てから取り除く」よりも、「痛みが出にくい身体を保つ」という発想です。

yellの考え方:痛みは結果、柔軟性は原因

yellでは、肉離れやハムストリングの硬さに対して、こんな考え方で施術を組み立てています。

痛みは結果
柔軟性・血流・筋緊張のバランスは原因

結果だけを追いかけても、原因が残っていれば、再び結果が出てきます。
なので、目の前の痛みを和らげるサポートをしつつ、身体全体の柔らかさ・血流の通り を整えることを目的にしています。

論文のRCTが示してくれたのは、「鍼を経穴に当てると、柔軟性が変わる」というシンプルな事実。
その事実を、目の前の方の身体に合わせて使わせていただく、というのが私たちのスタンスです。

まとめ

ここまで読んでくださってありがとうございます!

今回のポイントをまとめます。

  • 2023年RCTでは、柔軟性は有意に改善・痛みは有意差なし(本物の鍼)
  • 「変わらない」ではなく 「測りきれない」:15名・直後のみ・穏やかな手技というパイロット研究の限界
  • プラセボ群でも痛みが軽く減った背景には、C-tactile経路 という触覚の神経メカニズムが関わる
  • 論文の結論は「鍼は柔軟性を上げ、結果的に痛み予防につながる」設計
  • yellの考え方は「痛みは結果、柔軟性・血流・筋緊張のバランスは原因

「自分の身体、痛みが出る前の段階で何かできることはあるかな」と感じられたら、公式LINE からお気軽にどうぞ。
立川駅・立川南駅からアクセスしやすい場所にあります。

yell鍼灸治療院は、あなたの健康と笑顔とハッピーを超応援します!


参考文献

  • Carvalho RM, Machado J, Santos MJ, Matos LC. "Can Acupuncture Improve the Flexibility of Hamstring Muscles? A Randomized, Blinded, and Controlled Pilot Study." Healthcare (Basel) 2023; 11(4): 490.
カテゴリスポーツ
タグ#エビデンス#ハムストリング#柔軟性#疼痛#立川#鍼灸

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